Fishing of memories



桃源郷
私の記憶の中にはまさに桃源郷がある。
渓流釣りを始めて間もないある日のこと・・・。

両親にとっては珍しいであろう岩魚を味あわせてあげたい!
などと思い、餌竿片手に鳥取・島根県境を彷徨う。
意気込んで出掛けた割には釣果の方はさっぱりで、彼方此方の川を巡り歩きながら峠を越え、再び島根側に入った。

眼下に見える谷。
なだらかな斜面を数十メートル歩いて下り、川というより沢に降りた。
そこは区画整備工事の真っ最中だったように記憶している。
横に流れる沢には真新しい土管が1本埋めてあり、その前後が深くなって、見るからに好ポイントだ。

先ず上流側の土管入り口に餌を投入。
すぐに当たりがあり、8寸程の岩魚。
出口側でもひとまわり小ぶりながら相次いで掛かった。
結局、その沢のほんの短い区間で4〜5匹を釣り、初心者であった私は意気揚揚と帰宅したことを覚えている。

そして10年程時は流れ
島根の岩魚が置かれている現状を知っていくと、惨い事をしてしまったという反省と共に、もう一度だけあの岩魚達(コギ)に会いたくなった。
けれど近くを通る度にあの沢を探しているのだが、どうしても見付からない。

歩き下った斜面。
真新しかった土管。
そして幾らでも釣れそう思えた岩魚。
断片的に覚えている記憶は鮮明だが、それらしき谷に未だ辿り着けないでいる。

もしかするとコギの生息域東端であったかも知れないあの谷の岩魚。
二度と辿り着けない方が私にとっても幸せなのかもしれない。
辿り着けることが出来ない記憶の中だからこそ桃源郷なのか・・・。
なんちゃって(^^;


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